若菜かな…?
第3章 若菜の部屋
「ちゃんと服を着よう」
胸を触っているうちに、気持ちよさからいつしか眠ってしまったようだ。
窓の向こうはすでに暗くなってた。
階段の下から、若菜を呼ぶおふくろさんの声が聞こえる。
どうやら夕食の準備ができたらしい。
俺はチェストの中に見覚えのある部屋着を見つけ、急いで着替えて1階のダイニングルームへ向かった。
おふくろさんは鼻歌まじりに皿に何かカレーのようなものをよそっている。
「なに、それ?」
「あなたの好きなビーフストロガノフじゃない」
(おーっ! これが噂に聞く、ビーフストロガノフっていうやつか!)
「好きでしょう?」
「うん。大好き!」
俺はキャピッ!とそう答えた。でも、ちょっとキャラクターが違ったかな……。
食事中の会話は何とかうまくごまかせた。なんてったって、若菜とは、幼稚園の頃からずっと同じクラスなのだ。若菜のことは誰より詳しい。もしかしたら、おふくろさんより俺のほうが詳しいんじゃないかってぐらい詳しいのだ。会話を合わせることぐらい朝飯前だ。
「美味しかったよ。ママ。ごちそうさま」
「おそまつさま」
「それじゃあわたし、上で宿題してくるね」
「あ、若菜、ちょっと待って」
おふくろさんはそう言ってから、冷蔵庫から大きなメロンを取り出した。
「悪いんだけど、これ、たっちゃんのところへ持っていってくれないかしら。この前、イチゴもらったでしょう。そのお返しに」
「いえ、あのイチゴ、もらい物ですから」俺はついそう口走ってから「って、達也くん、言ってたよ」とつけ加えた。
おふくろさんはちょっと怪訝な顔をしたが、不審を抱くまでではないようだ。
俺はメロンを両手に抱え、急いでサンダルを履いて外へ出た。