美人局長の秘密指令 1-1

美人局長の秘密指令

第1章 調査局

夕暮れの西日を強く体に感じながら、紀香は最上階の調査局長室へと向かっていた。
廊下に響く硬い靴音。真っ赤なハイヒールが長く伸びた脚線を否応なく目立たせる。
調査局の業績は社内でも表に出ることはない。組織は少数精鋭のごく一部の人間により仕切られ、その人事は人事部からもまったく切り離されている。そもそもが、調査局というのはあくまでも便宜的な呼び名であり、その実態は、社長直結で活動する個々の諜報員の総体なのだ。
亜由美は皮張りの黒い椅子に座りながら夕日をじっと眺めていた。32階の最上階、遠く霞んだ地平線にはモヤに消え入る無数のビルが並んでいる。
彼女は東京大学を卒業してから諜報一筋に活動してきた。その手腕はひとことで言って冷徹非道、学生時代は在学中に司法試験にパスしたということで、また、その類まれみる美貌がマスコミの注目を集めたこもあったが、諜報員として活動することとなってからは地下に潜るように姿し、表舞台に立つことは二度となかった。しかし、裏の世界で本当の才能を開花させた彼女はその明晰な頭脳と美しい肉体を大胆に使った独特な手法でときには国さえ動かす力を発揮し、ついには若干33歳の若さにして諜報局のトップの座に昇りつめることになる。
「お呼びでしょうか? 局長」
亜由美はふと我に返ったように振り返った。紺のスーツを着たすらりとした長身。腰に届くような長い髪が、サラサラと小波のように肩を洗う。
「早かったわね。紀香」
「はい、局長」
「あなたに会うのも一月ぶりぐらいになるかしら」
「はい。大明製薬の仕事でロスへ行っておりましたから」
「報告は聞いたわ。見事な成果だったわね。」
「ありがとうございます」
「あなたも、もう一人前ね」